入社してすぐの頃、私はデザイナーから上がってきた案を見て、正直に思ったことをそのまま伝えていました。「なんかちょっと弱い気がします」「もう少しおしゃれにできませんか」。
デザイナーの反応は微妙でした。何度もそういうやり取りを重ねるうちに、あるとき先輩から言われたんです。「お前の指摘、好き嫌いで言ってないか?」と。
図星でした。私はデザインの良し悪しを、自分の感覚だけで判断していたんです。それ以来、デザイン確認は「センスの勝負」ではなく「視点の勝負」だと考えるようになりました。センスがなくても、見るべき視点さえ押さえれば、必要な指摘はできます。
今回は、私が実務の中で使っている「デザイン確認の3つの視点」と、感覚的な違和感を言葉にする方法についてお話しします。
デザインチェックは「センス」ではなく「3つの視点」で見る
デザインが上がってきたとき、闇雲に眺めても何も見えてきません。私は次の3つの視点を順番に当てはめるようにしています。
視点①目的軸:要件・ゴールを達成できているか
そもそも、そのデザインは何のために作られているのかを思い出すところから始めます。問い合わせを増やしたいサイトなのか、ブランドイメージを伝えたいサイトなのか。目的が違えば、良いデザインの基準もまったく変わります。
- 事前に決めた要件(ターゲット、訴求内容、優先順位)がデザインに反映されているか
- クライアントが伝えたいメッセージが、パッと見て伝わるか
- 行動してほしい導線(問い合わせボタンなど)が、埋もれずに目立っているか
要件定義の段階で決めたことが、デザインという「見た目」にきちんと変換されているかを確認する視点です。要件定義の詰め方自体に不安がある方は、以前書いたWeb制作の要件定義で欠かせない3つの視点の記事もあわせて読んでみてください。

視点②ユーザー軸:初見のユーザーが迷わず動けるか
次に、作り手側の目線を一度脇に置いて、初めてそのサイトを訪れたユーザーの立場で見直します。
- パッと見た瞬間の第一印象はどうか(興味を持てるか、信頼できそうか)
- どこを押せばいいか、どこに情報があるか、直感的に分かるか
- スマホで見たときも、同じように迷わず操作できるか
ここで大切なのは「自分がWeb業界に慣れすぎている」という自覚です。クリックやスクロールに慣れた目で見ると、初心者ユーザーが迷うポイントを見落としがちです。可能であれば、家族や他部署の人など、Web制作に詳しくない人に見てもらうのも有効です。
視点③運用軸:実装・更新のしやすさを考慮できているか
最後に、公開後の運用まで見据えた視点です。デザインの時点では気づきにくいですが、後工程で必ず影響してきます。
- テキスト量が増減しても、レイアウトが崩れないか
- クライアント自身が更新する箇所(お知らせ欄など)の見た目が、更新後も破綻しないか
- スマホ・タブレットなど画面サイズが変わったときの見え方はイメージできているか
この視点を持たずにデザインを確定してしまうと、実装フェーズで「これ、スマホだとどうなるんですか」といった質問が噴出し、手戻りの原因になります。
「なんとなく違う」を、伝わる言葉に変換する
3つの視点で見ても、最初は「なんとなく違う」という感覚しか出てこないこともあります。それ自体は悪いことではありません。問題は、その感覚をそのままデザイナーに投げてしまうことです。
NGフィードバックとOKフィードバックの言い換え例
| NG(感想ベース) | OK(判断基準ベース) |
|---|---|
| もう少しおしゃれにしてほしい | ターゲットは30代の経営層なので、もう少し落ち着いたトーンにできますか |
| なんか弱い気がする | 一番伝えたいメッセージより先に、画像の情報量が多くて目に入ってしまいます |
| ここ、違う気がする | このボタンの色が背景と近く、クリックできることが伝わりにくいです |
| 全体的にいまいち | 要件にあった「信頼感」より「親しみやすさ」が強く出ている印象です |
見ての通り、OK例には必ず「誰にとって」「何のために」という判断基準が入っています。
違和感の正体を突き止める3つの質問
感覚的な違和感が浮かんだら、自分に次の3つを問いかけてみてください。
- これは誰の目的に照らして違和感があるのか(クライアント?ユーザー?)
- その違和感は、3つの視点(目的・ユーザー・運用)のどれに当てはまるか
- 好みではなく、根拠を一言で説明できるか
この3つに答えられれば、フィードバックは自然と「感想」から「判断」に変わります。答えられない場合は、まだ自分の中で違和感が言語化しきれていないサインなので、少し時間を置いてから再度見直すのもおすすめです。
クライアントとデザイナーの間で板挟みになったときの動き方
デザイン確認では、クライアントとデザイナーの意見が食い違う場面も珍しくありません。ここでディレクターがどちらか一方の味方をしてしまうと、後々こじれます。クライアントからの要望そのものの受け止め方については、以前書いたWebディレクターが迷うクライアント対応、3つの判断軸でも触れているので、あわせて参考にしてみてください。

意見が対立したときにまず確認すべきこと
- クライアントの要望は「好み」なのか「目的達成のための要望」なのか
- デザイナーの意図は、要件を踏まえた上での提案なのか、単なる表現上のこだわりなのか
どちらも「なんとなく」で主張している場合は、双方に目的軸へ立ち返ってもらうよう促すのが私のやり方です。「今回のサイトのゴールに照らすと、どちらが近いか」という共通の物差しに乗せると、感情的な対立になりにくくなります。
どこまで通し、どこで引くかの判断基準
- 目的達成に直結する部分(視点①)は、ディレクターとして意見を通す
- 見た目の好み・微妙なニュアンスの部分は、デザイナーの専門性を尊重して引く
- クライアントの強いこだわりでも、ユーザーの離脱につながりそうな場合は、リスクとして明確に伝えた上で最終判断を委ねる
すべてを自分の判断だけで抱え込まず、「なぜそう判断したか」を関係者に説明できる状態にしておくことが、板挟みを乗り切るコツだと感じています。
確認漏れを防ぐ最終チェックリスト
3つの視点を意識しつつ、細部の確認漏れも防ぎたいところです。私が最後に必ず目を通しているポイントを挙げておきます。
- 誤字脱字、表記ゆれがないか
- 画像や素材に抜け漏れがないか(仮画像のまま残っていないか)
- PC・スマホなど、複数のデバイスサイズでの見え方を確認したか
- ボタンやリンクなど、操作できる要素が視覚的に分かるか
- ブランドカラーやロゴの扱いに誤りがないか
このリストは「感覚」ではなく「作業」として淡々とこなす部分です。3つの視点で本質的な確認を終えたあとに、仕上げとしてチェックする流れがおすすめです。
まとめ:デザイン確認は「好き嫌い」ではなく「目的とのズレ探し」
デザイン確認で大切なのは、審美眼を磨くことではありません。目的軸・ユーザー軸・運用軸という3つの視点で見て、感覚的な違和感を「誰にとって、なぜそう感じるのか」という言葉に変換することです。
デザインセンスに自信がなくても、この視点さえ押さえれば、現場で必要とされるフィードバックはきちんとできます。
ディレ和尚のひとこと
好き嫌いは捨てるべし、目的だけを味方につけるべし。



